以前から企画中のZ系専用シリンダースリーブ。
量産型と同じ最終試作品が仕上がってきました。
自分が書いた図面でも形状や寸法がおかしくないか実際に製作して検証する為に、実際に量産するものと同じものを少数製作したものです。
量産品が仕上がってきてから寸法的なポカが判明した日には目も当てられませんから。
先行量産型とは言っても材料も加工も本番と同じものですので、もちろん実戦投入可能な品です。
従って、72mmか73mmのピストン組まれるお客さんに使えます。
さて、ピストンに関しては、製法により鋳造,鍛造の違いはもちろんの事、メーカーブランドによって相当な種類が在り、チューニングメディアでの注目度も高いのですが、同様に重要な筈のシリンダースリーブに関しては派手さが無い為か殆ど顧みられることがありません。
唯一アフターマーケットのアルミメッキシリンダーがカスタマイズアイテムとしてメディアでもてはやされる事がありますが、アルミの特性上鋳鉄より厚くせねば剛性が保てず(同じにするなら3倍の厚さが必要)ボアが稼げなくなる上に、ブロック加工の難易度が障害になって普及していません。
この為やはり一般的に交換用のスリーブとなると鋳鉄となるのですが、鋳鉄の材質に関しては、現代日本の鋳鉄技術から入手可能なボロン鋳鉄(ターカロイ)の中でも最も高級なものを使用する様にしています。
鉄の精錬や鋳造、圧延鍛造技術に関しては、一般には目立たないながらもこの半世紀で最も技術が進化して、日本がアドバンテージを取ってきた分野です。
例を挙げてみれば、40年前は630と言う極太の物でなければ耐久レースを完走する為の耐久性が確保出来なかったチェーンやスプロケットが、現代では520という3サイズもダウンされたものが普通に使われている程です。
鋳鉄においての合金配合の研究と同時に、組織を均一に仕上げる為の鋳造技術が向上する事で、現代日本のスリーブ用鋳鉄はZ系が発売された頃に比較して耐摩耗性が向上していますから、これを使って自分達が理想とする寸法で純正品を上回るスリーブを作ろうと思ったのが事の始まりです。
スリーブ外周には、分子レベルでの密着性を上げてシリンダーブロックに対する熱伝導性を向上させる為の銅メッキを施して、研磨加工を施しています。
均一に研磨線が見えますが、実際ピカピカです。
このスリーブの銅メッキは、シリンダースリーブの抜け止め修理の際に行う様に外周を大きくするのが目的ではありませんから非常に薄く、厚さはミクロン単位です。
実際非常に薄いもので、研磨して均一に残る程度です。
表面の凹凸状態を測定したデータです。
鋳鉄表面のままの場合、ここまで均一に研磨するのは極端にコスト高になります。
又、銅は熱伝導性が良く柔らかい為、アルミのブロックに挿入された際の馴染みも良くなります。
外周は、シリンダーブロックに埋まる部分が78.6mm、下方に突き出す部分で78.2mm。
これは、初期のZ1やZ2系のブロックのフィンの底に穴が開いたりブロック厚が薄くなり過ぎる事による剛性低下を招かない為の最大の寸法です。
又、上面のツバ部分を加工すればZ1100R,GPやGPZ1100のブロックにも使用できる大きさにしています。
74mmピストンを使用しても、片側肉厚2.1mmが理想的に残ります。
通常リプレイスのシリンダースリーブは肉厚が大きく取ってある為、交換後のボーリングを大きく行わねばならないのでボーリングのコストが大きくなったり、加工中の発熱で寸法の精度に問題が出る場合があります。
この為、当社製のスリーブは上記の外周寸法に対して71.5mmと72.5mmの2種類の内径寸法でラインナップします。
72mmや73mmのピストンを使用するのに最低限のボーリング幅で済む為、加工コスト面でも精度面でもメリットが大きい筈です。
スリーブ下端。
73mm、74mmのピストンを使用しても、シリンダーにリングを挿入し易い形状にしています。自分達で組んでいて、現場からの要求を取り入れた部分です。
シリンダースリーブの寸法や材質、外周の銅メッキの原理や利点については、過去に個別記事で何度か書いていますので、参考にして下さい。