最新型の水冷車のブロックと違い、Zのエンジンはクランクケースからシリンダーブロックが分割出来る為、ケース上面にはシリンダースリーブの下端が挿し込まれる為の穴が開いています。
この穴の大きさと位置ですが、ケースの形式が同じで年式が同じでも微妙に異なるものがありますので、スタンダードで組む場合は別にして、カスタマイズする場合には注意が必要です。
例えば、Z2のシリンダースリーブの外径は、Z1のシリンダースリーブより僅かに小さいです。
オリジナルボアが2mm小さいので、スリーブ厚を同じに取れば当然その様になるでしょう。
では、クランクケース側はどうなっているかと言えば、Z1より後から作られたZ2なので共通でしょと思いたくなるのですが、実はわざわざ小さくしてあるものが(少なくとも初期では)存在します。
別にケースの金型を共通にして何の不都合があろうかよと思いたくなるのですが、これは1000番を結構下回る初期型RSのクランクケースに僅かに大きなZ1のシリンダーブロックを入れてみたもの。
進行方向に向かって後ろ側の部分が完全に接触干渉しています。
この状態で、シリンダーブロックの前側が3mm~4mm程完全に浮いていますので、僅かに当たるなどと言うレベルではありません。
シリンダーを外してみたところ、軽く載せただけなのにスリーブのオイル汚れ部分が擦れて取れているのがわかります。
例えばですが、Z2のシリンダーブロックをヨシムラさんところなんかの69mmピストンを入れるのにボーリングすると、スリーブ厚は結構ペナペナになります。
この為耐久性重視でZ1の純正スリーブに交換したりと言う様な事もあるのでしょうが、上の写真を見る限りこのケースの場合は無加工では絶対に組み込み出来ません。
もちろん同じZ2系のケースでも全く干渉せずにZ1のシリンダーブロックが乗った例もあるのですが、ケース番号何番だったら大丈夫なんてデータはありませんから、このあたりはカスタマイズ時に必ず現物合わせで仮組みしての確認が必要です。
少なくとも
Z2のケースにZ1のシリンダーはそのままでは入らない(場合がある)
と記憶して下さい。
又、これは別の例としてZ1のケースを内側から見たもの。
組み込んであるのはノーマルのZ1スリーブが入ったブロックで、元々純正の組み合わせですから当然この場合はスリーブが干渉したりはしていませんが、そのクリアランスに注目。
個体差ももちろんあるのでしょうが、スリーブの後ろ側との間隔が0.5mmも無い部分があります。
純正の組み合わせで既にギリギリです。
この為、Z1系より更に2mmばかり大きなZ1000系のスリーブを入れれば、一見入りそうながら当然干渉します。
この一見入りそうと言うのが問題で、ケースやブロックの変形も気にする事なくガンガン締めると締まってしまう場合があります。
(トルクのかかりかたが明らかにおかしいので普通は途中で気付きますが。)
以前に拝見したZ1のカスタム車で、シリンダーベースからのオイル漏れが激しくてえらく異音も出るとのものがありました。
分解するとスリーブをZ1000用のものに交換して73mmまでボアアウトされていたのですが、ケースを無加工のまま上記の様に締めてしまったらしく、スリーブは割れる直前まで卵型に変形。ピストンのスカート部は数百kmしか走っていないにも関わらず使用不可な程の編摩耗と傷でシリンダーブロックもケースも変形して使用不能と判断せざるをえませんでした。
Z1のケースにZ1000のシリンダーはそのままでは入らない
と言う予備知識が無かったのはしょうがないとしても、メーカーのノーマル以外の事をやろうとするのであれば現物の仮組みを含む検証を行いながらの作業は必要です。これを怠って迂闊な作業を行うと、チューニングするつもりで大枚かけたエンジンも母材から破壊してしまう事になります。
厳しい言い方ですが、最低限目視や測定で確認できる程度の作業をきちんと行わないのであれば、改造にあたるカスタムに手を出すべきではありません。
ちなみに上記のZ1ケースにZ1000スリーブの組み合わせですが、実際のところ根気よく現物合わせで確認しながらポート拡大のレベルでグラインダーで削れるレベルの干渉です。
当社の場合はデータありますので、マシンで行った方が安く済みますが、それ以上のスリーブを組む予定が無く自分で時間のある人は最小限の手加工で済ます事も出来ます。
さて、更に続きます。
Z2もそうですが、何故か穴の前側とスリーブの間には結構隙間があります。
Z1系はクランクケースの見た目の穴に対しての真ん中位置にスリーブが通っていません・
これは個体差の問題では無く、全ての車両で前側のほうが開いています。
この為、Zを知らない加工屋さんにケースだけ渡して、
”ケース側の穴を直径で3mm拡大”
なんて指示をしたりすると、全くずれた位置を中心に拡大加工してしまう危険も大です。
特に前回記事にした通り、ベースガスケットの咥え幅が無くなってしまう場合もあります。
やはり、こういった加工は正しいデータに基づいて加工の出来るところに出すか、なるべく装着するシリンダーに対して現物合わせで最小限の加工を行うのが理想です。