エンジン負荷とよく言いますが、これをわかりやすく言えば運転中のエンジンにかかる抵抗の事です。
例えば高速道路を走っていて、そこそこ高いギアであってもスピードさえ乗っていればアクセルは殆ど開く必要も無く、路面と駆動抵抗によって失われる分のみの僅かな力を加えるだけで同じ速度で走り続けられます。エンジンは苦しげな様子も無くゆったりと廻っている事でしょう。
流れ込む混合気量も少なく、燃費も良い状態の運転と言えます。
この状態は低負荷状態にあると言えます。
さて、例えば巡航中にギアポジションはそのままにぐいっと大きくアクセルを開いてみます。
バイクは加速体勢に入ろうとしますが、路面や車重に風圧の抵抗によってアクセルを開けても簡単には回転は上がってはいきません。
この状態は極端な超高負荷状態にあります。
ここで思ったより加速しないのでクラッチを切ってギアダウン。
負荷の減ったエンジンの回転上昇はもっとスムーズになります。
流れ込む混合気量はどんどん増大して、それに従って燃料消費量も増えます。
この状態は先程程では無いにしても加速を続けている限りそれなりの負荷状態です。
この各負荷状態においての理想的な点火時期ですが、理屈を詳細説明するとえらく長くなるので別の機会にするとして、最初のクルージング低負荷状態の場合は早く、最後の加速中の負荷状態では僅かにそれより遅く、
ギアそのままに開けた際の、加速はすぐには出来ないけれどアクセルを開けた際の超高負荷状態では最も遅くなります。
さて、ウオタニさんのところで作ってもらっているフルパワーキットのVer.PAMSの3次元マップがこれです。
これは2種類入っているマップのうちSTDレベルコンプレッションエンジン用。
ウオタニさんの元々のユニットに入っている純正車両用マップをベースに、若干の変更を入れたものです。
この3次元マップは開度センサー等付いていない車両に装着する際に誤解や混乱を防ぐ為に標準マニュアルには記載して無いので、以前販売したモデルには入って無いのかと言われそうですが、9年前に販売開始したVer.PAMSにもちゃんと入ってます。
これを見るとアクセル開度で負荷を予想して必要に応じてベースカーブ(フラットな部分)から進角させているのがわかります。
又、開度全開=最大負荷状態と言う事で、100%の時のカーブが2次元の場合のベースマップになっています。(TPS等の補正信号が入力されない場合は、この最大負荷時のマップに固定されます)
例えば、アクセル開度が1/3程度でエンジン回転が2500rpm程度だったとすると、おそらくはクルージング状態であると想定し、点火時期を進めます。(山の盛り上がっている水色の部分)
同じ回転数でアクセル開度を開けて加速の為の負荷状態、更に大きく開ければ超負荷状態として点火時期は最も遅角したベースマップを使います。(フラットな黄色の部分)
逆にローギアや2速の場合、アクセル開度が1/4~1/3程度であったとしても抵抗も少なく高回転まで廻ってしまいますが、この場合は負荷が少ないものとして高回転でも点火時期は進ませるようになっています。( 赤い部分)
又、アクセル開度が全閉になっている場合。
回転数関係無く全閉時に極端に進角させるとアクセルオフ時の走行中の回転の落ちが悪くなりますのでベースマップに等しいラインとなっています。(緑のライン)
さて、点火時期にエンジン負荷を考慮しての補正ですが、基本的にはクルージング等の低負荷時に進角させる事で燃焼効率の向上を狙ったシステムですので、アクセル開度が少なく低負荷加速やクルージングの多いストリートマシンでは効果が大きいです。
逆にアクセルワークが加速やトラクションをかける事でリアグリップのコントロールを行う為にのみ行われるレーサー等では原則的に高負荷状態な為、殆どがベースマップに近いほぼフラットな部分を使っている事になります。
ここで簡単な実験。
アイドリング運転中のエンジンはそれ自体のフリクションのみの極低負荷しかかかっていない状態です。
アクセル開度は一定のまま点火時期を変えるとどうなるか。
初期設定の上死点前10°に設定した場合。
1080rpm
アイドルアジャスター(スロットル開度)は一定のままプレートを廻してアイドリング中の点火時期のみを更に10°程進めて上死点前20°にします。
1560rpmに上がりました。
(ちなみにこれ以上回転が上がると、マイコン側で回転数による進角がスタートしますので、更に回転は上がって行きます。)
アクセル開度は上述の通り一定のままですから、アイドリングレベルの様な極低負荷状態では点火時期を進めるだけで燃焼効率が向上して出力が上がった事になります。
アイドリング程ではないにしても、低開度でもバイクが進んでいく様な低負荷状態では点火時期を進める事で同じ効果があります。
又、この状態ではアイドリング中の燃料はヒートしない程度まで絞る事が出来ますので、信号待ち等の多いストリートでは燃費も良くなります。
ただ、そういうセッティングを行うと、発進の為にクラッチミートして負荷がかかった瞬間のトルクが極端に低下する事になりますので、適当な匙加減が必要です。
余談ですが、これがインジェクションの場合はアイドリング時のみの薄めの燃調と早めの点火時期のマップを設定しておいて、アイドリングを検知したらそれを読み出す事で制御させる事が出来ます。
但し、キャブレターでそういったセッティングはなかなか難しく、発進時に必要なトルクを考えれば程々の空燃費の濃さと理想よりは僅かに遅めの点火時期を使用する事になります。
2輪4輪問わずキャブ時代の市販車で、市街地メインに使用されていた車両がどうしても燃焼室にカーボンが溜まり易かったのはこのせいもありますね。
インジェクションが導入された市販乗用車の街乗り燃費が大幅に向上したのは、こういった制御が導入された事も理由です。