先日記事の最後で少し触れた、スリーブ外周への銅メッキについて。
Zの様な空冷エンジンのスリーブからアルミブロックへの熱伝導性を上げるのに効果的な方法として、
最近の空冷エンジン(特にシングルエンジンに多いのですが)では鋳鉄スリーブ外周そのものをリブ付きフィン形状のヒダヒダタイプにして、これをアルミブロックに鋳込むと言う方法が増えています。
(写真を載せたいのですが手元にありませんので、”スリーブ 鋳込”ででも画像検索してみてください)
これは構造の変更で対処した例で、スリーブとブロックの接触面積を増やしてやる事で放熱性を向上させる事はもちろん、ブロックの強度も上がり、スリーブ緩みによる抜けなど皆無です。
反面、ブロックの肉厚を若干増やさないとスリーブを鋳包む事が出来ませんし、いざボア拡大でスリーブを交換しようとすれば切削して除去するしかありませんから非常に高くつきます。
Zの場合は今更スリーブを鋳包む事は出来ませんので、筒形状のまま可能な限り接触面積を増やす工夫を行うわけです。
これは、鋳鉄スリーブの表面のアップ。
外周は切削加工で仕上げるので、精度を上げてもどうしても引き目は残ります。
これを研磨しても、鋳鉄の場合それそのものの平滑度を上げるに限界があります。
そこで、柔軟性かつ熱伝導性の高い金属である銅を薄くメッキして、円筒研磨を行う事で平滑度を大きく向上させる事が出来ます。
銅はスリーブ外周の加工切削目の底まで分子的に密着しています。
スリーブ外周が平滑であればある程、ブロック側内周との分子的な接触面積はマクロレベルで向上しますし、熱伝導性が高く(アルミの2倍近い)柔軟な銅が介在する事で、スリーブからブロックへの熱伝達がスムーズに行われるわけです。
もちろんこれは私が考え出した技術というわけではありません。
オートバイレベルでは到底考えられない様な長期間長距離に使われるエンジンのドライライナーに施されているものです。
ドライライナーのエンジンは水冷ではありますが、ブロック側に一度熱を吸収させるという点では同じで、冷却を空気かラジエター液かで行うのみの違いです。
反対に、直接ラジエター液をスリーブに当てるのがウェットライナー。
その場合は外周に施す事があるのは、錆やキャビテーションによる浸食を防止するの為のクロームメッキです。
シリンダースリーブよりブロックへの熱伝達性が向上して温度差が小さくなれば、長年使われたZ(特にブロックの薄い初期Z1系)で発生し易いスリーブの緩みも緩和されると思います。
又、副次的な効果としてですが、スリーブの圧入や抜き取り時に柔らかい銅が滑る事で、アルミ製のブロック側への縦傷を生じさせ難いというメリットもあります。
さて、ここからはちょっと外れた話になりますが、下の写真は私のノートPCのCPUやグラフィックチップの冷却系です。
一部のノートPCを除き、冷却系はヒートパイプで熱を交換器(ヒートシンク)迄導き出して電動ファンで冷却するという方法を取っています。
ヒートパイプはただの銅の棒では無く、パイプ状の内部を冷媒が循環する事でほぼ音速にも等しいスピードで熱を運び出すのですが、CPUを含むチップからの熱伝達面には必ずこの様にサーマルグリースと呼ばれるペーストを塗ります。
素人感覚で考えれば、熱伝導性に劣るグリースやオイルの類なぞ塗ったら熱伝達の邪魔になりそうですが、このグリスはチップと冷却盤との間で分子的に面接触しきれない僅かな窪みに入り込みます。
グリース(通常は耐熱性の高いシリコンです)自体の熱伝導性は通常金属程に高くはないのですが、それでも接触部分に空気が入り込むよりは遥かに良いのです。
気体や真空の状態が最も熱伝導を阻害しますから。
この為、サーマルグリースを使うのと使わない場合では冷却性能に雲泥の差が出る事はPCの世界では常識で、技術的にも証明されています。
もちろん、CPUのチップ面と冷却盤面が接触出来ない程大量に塗ってしまうと熱絶縁されて冷却効率が下がりますので、極薄く塗って冷却盤とチップの間にテンションをかけて接触させます。
上の写真では明らかに塗り過ぎなので、CPUの交換と同時に丁寧に拭き取ってやり直しました。
(余談ですが、PCの分解や部品交換等の改造作業は自己責任です)
これが、サーマルグリース。
熱伝導性の高い超微粒子の純銀を混入された数グラムで¥1,000~¥2,000以上したりします。
更に性能の高いダイヤモンドパウダーの入ったものだと呆れるくらい高価です。
シリンダースリーブの圧入時に外周に塗ってやれば冷却効率が高まる様な気もしますが、その前にブロック内部の平滑度を上げて、更にスリーブとの圧入クリアランスの方が遥かに大事です。
もちろん加工が適切に行われている事を前提に、それでも加工目等の関係で生じてしまう僅かな空間を埋めるのに、コストに見合う良い材料があればありだとは思います。
ダイヤモンドとは言いませんが、銅や銀より熱伝導性に優れるグラファイトペーストなるものも存在します。