Z系のバルブ周りのインナーシム化は、シムが小型化される事による動弁系の軽量化メリットもさることながら、最大リフト量が大体9.5~10mmあたりを超えるハイリフトのカムでインナーシムが掻きだされてヘッドを破損するトラブルを防止する観点から採用する場合が多いです。
ただ、専用工具を使ってクランクを回転させればシムを交換する事の出来るアウターシムと比べ、インナーシムの場合は都度カムシャフトを脱着せねばならず、何度もやってるとシリンダーヘッド側のカムホルダーネジ山の破損が気になります。
例えヘリサート等で補修が可能であったとしても、負担は最小限に留めたいところですので、こういう場合は以前にも何度か紹介しているカムホルダー周りの仮組み用ボルトセットを使います。
構造上ヘッド側のネジ山破損は、カムの脱着時にスプリングのテンションをかけながら母材側のネジ山を手前から擦っていくのが殆どの原因なので、予めスタッドボルトを深く埋めてナットでカムを押し下げる事で繰り返しの脱着による痛みを防止してやろうと考えてのものです。
正直半ば裏パーツの様な扱いなのですが、たまにプロショップや自分でエンジンを組みばらしまでされるプライベーター様からお問い合わせをいただきます。
(例えばレース前夜などにカム脱着していて、ヘッド側に埋め込んだヘリサートコイルが引き抜けて気が遠くなった経験があるから、などという人が多いです。)
ちなみに自分は特にインナーシム式のエンジンの場合は必ずヘッド単品の状態で大まかなシム合わせはやってしまいます。
大まかなと言うのは、ヘッド単品で完全に合わせてもシリンダー上に搭載してヘッドナットで締めつけた時点で僅かにながらクリアランスが変化する事が多いのと、一通り調整後に再度セルモーターでクランキングさせて圧縮のばらつきをシムのさじ加減で調整する場合が多いからです。
ちなみに、写真のヘッドにハイカム用の逃げ加工がしていないので、さほどでは無い様に見えますが、このカムは昔よくあったベースサークル径が小さくされたタイプのものだからです。リフト量は約9.6mmと、GPZ1100のそれを上回っています。
シリンダーヘッド搭載後に、上記の通り再度シムのクリアランス調整を行い、正確にバルブタイミングを測定したら更にセルモーターでクランキングさせて圧縮圧測定、それによって再度調整。
こうなるとインナーシム仕様でエンジンを組むと、少なくとも数回はカムを脱着します。更にリフト量の高いカム等を組んで、ピストンヘッドとバルブのクリアランスをチェックしながらとなったら、更にその回数は増えるでしょう。
それを考えると、こういった方法でのヘッド側のネジ山の養生は無駄では無いと思うわけです。
さて、このボルトはあくまでカム脱着用のツールであって、最終的には通常の様にボルトに交換しなければなりません。
その場合は、この様にシャコ万と呼ばれるバイスと当て木でカムホルダーを押さえながら行います。
こうするとやはり交換でのネジ山痛みを防止出来るのですが、半分ずつやってるのは万が一シャコ万がずれて外れた場合を考えての事です。
エンジン組み時のインナーシム化は特に手間はかかりますが、パフォーマンスの代償と言う事で。
ネジ山というものは整備の為に脱着を繰り返せばそれだけ痛むものなのですから、方法は問いませんがなるべく寿命を考えて作業したいのです。