先日のガスケット記事で”シリンダーライナー”と書きましたが、Z系含む空冷エンジンの場合は“シリンダースリーブ”と呼ぶ事の方が多いので、後者の方に統一します。
さて、これは何種かのサイズで試作したシリンダースリーブの内の1本。
72mmボア以上のチューニングエンジン用となります。
試作と言っても、同様のものを当社で都度製作しては73~74mmボアの数十台のエンジンに組んでいますので、製作個数としては既に量産品並みの実績があるものです。
材質は耐摩耗性に優れ、一品製作の高性能スリーブ用として使われるボロン鋳鉄(一般にターカロイの名で知られています)
上部ツバのある部分の寸法はZ1000系に準じています。
この部分は出来れば直径で3mmばかり大きくしたいところですが、それを行うとカムチェーントンネルのOリングが干渉して使用出来なくなるからです。
ブロックに当たる部分の寸法と、ケース側に入る部分の寸法はオリジナルです。
まず、シリンダースタッドの為のスルーホール位置を考えると、オイルリークをさせない為のガスケットの幅を残した場合、シリンダースリーブ外径は78mm強が限界である事が判っています。
実際ワイセコのKA629あたりの大きなスリーブを無加工で入れるのに合わせてケース側の下穴を拡大すると、ベースガスケットの最も幅の狭くなる部分が2mm前後となり、極端にオイルリークの可能性が高まります。
(それ用のサイズのCGベースガスケットも設定していますし使用して良い結果は出ていますが、寸法的にマージンを取ったものに比べればさすがに耐久性は劣ります)
余談ですが、何度ガスケット交換してもベースからオイルが漏れてくる場合、ケース側の下穴を大雑把に拡大し過ぎてガスケットが面間で挟めなくなっている場合があります。
こうなるとクランクケースを交換する以外にはオイル漏れを解決する方法は無くなりますし、ガスケットの当たり幅をきちんと取る為にもケース側の加工は正確に最小限に行う必要があります。
又、シリンダーブロック側ですが、81mm超のスリーブを入れる為に肉厚の薄いZ1やZ2(RS)系のブロックのスリーブホールを拡大すると、途中に外と通じる穴が開く場合が多々発生しますし、運よく個体差で開かなかったとしてもペナペナになった剛性の無いブロックをヘッドナットで上から締めれば、踏みつけたアルミの空き缶の如く縦に潰れて変形するかも知れません。
何せスリーブはブロックの上から挿し込んであるものですので、上から押さえ込めば薄くなったブロックを広げながら沈むだけです。
以上の様に耐オイルリーク特性を重視してブロック強度も考えるのであれば、外径78.5mmがZ系スリーブの寸法的限界であると考えます。
ボーリング後肉厚を安全マージンを残して片側2mm残した場合、インストール出来るピストン径は74mm、使用環境次第で1.75mmを許容とすればギリギリ75mmとなります。
ちなみに1.5mmを切ると、
”ただちに問題は起きないが、長期的に見た場合は寿命的に劣ってくる可能性が高い”
となります。
その薄さになりますと、明らかな加工ミスやセッティング不良等の扱い方の問題以外でこそ壊れる例はありませんが、スリーブは摩耗よりケース側に飛び出している下側部分が回転方向に変形して寿命を迎える事が、これまでの経験で判っています。
さて、寸法的に理想に出来たとして、機能パーツとして性能を上げるにはどうするか。
このボアになりますと、排気量の大きさはもちろん圧縮も上げられる場合が多い為、スリーブからの放熱特性も向上させたいです。
大体が、Z系で良く起こるスリーブの緩み自体、鋳鉄スリーブからアルミブロックへの熱伝導性の悪さが原因の一つでもあるからです。
そう考えた末に採用して、いくつかのエンジンで良好な経過が見られているのが、写真の銅メッキ化です。
これは、メッキの乗り方を確認する為に、Z1の中古シリンダーに銅メッキ後、加工を施したものです。
シリンダースリーブ外周へのメッキ化は、二輪四輪問わず水冷エンジンでのラジエター液よりの保護(錆の発生やキャビテーションによる表面浸食防止)の為に行われる場合が多いのですが、
アルミに倍する熱伝導率と、素材の柔軟性を利用して冷却性の向上に使おうというわけです。
量産空冷エンジン用の純正パーツに行うにはコスト高ですし、構造自体の変更で対処出来る場合が多いので採用される事は少ないのでしょうが、構造を今更変更できない(ブロック肉厚の変更や、スリーブの鋳込み化なんて無理です)Zの場合であればありでは無いかなと思います。
これについての詳細はまた次回。