シリンダーブロックにはスリーブが挿入されています。
当然ですが、この場合常温では必ずスリーブの方が僅かに大きい状態となっている事で圧入固定されている状態が正常です。
ところが、長年使われると熱膨張を繰り返す事とアルミと鉄である事による膨張差によってブロック側の穴が大きくなってしまい、結果としてスリーブ緩みが生じてしまうものが多い事はZ乗りの間では既にかなりの昔から広く知られています。
特に76年迄の750,900cc迄のシリンダーブロックはブロック肉厚が以降のものに比べて薄い為か、特にその傾向が見られます。
それではどれくらいのクリアランスになっているか。
測ってみます。
ちなみにこのシリンダーブロック、分解時に1気筒のみ僅かな緩みが確認された位で、他の気筒はそれなりの圧力をかけても常温では動かないレベルのものでした。
測定した結果を表にするとこんな感じになります。
一番下の項目にクリアランスが出る様にしてあります。
赤文字表示はマイナス、これはシリンダーブロックの穴側の方がスリーブの外周より大きくなっている事を意味します。
少し圧をかけると動く1番気筒の緩みが大きいです。
驚くべきは多少押しても常温ではびくともしなかった2番も既に緩んでしまっていると言う事実でした。
これは抜いてみてわかったのですが、隙間に入り込んだ油分に混じったスラッジが接着剤の様な効果を発揮してスリーブの動きを規制していた様です。
ただ、これ位の隙間が出来ているとスリーブとブロックの密着も悪くなっていますから熱伝導率も悪化していると考えられます。
又、X軸方向にはスカスカになっていてもY軸方向では固定される程度のクリアランスが残っていればスリーブは動きませんが、上記同様良い状態とはいいかねます。
通常はスリーブが完全に緩んでしまったブロックでなければわざわざ抜き取って測定や点検してみたりはせずに、そのままボーリングしてしまう場合が多いのでしょうが、上の例を見ると動かないからと言って安心は出来なかったりします。
もちろん全部が全部こんな状態というわけでもありませんが、万全を期すならボーリング前に一度ブロックを温めてスリーブを抜き取り、クリアランス測定をすべきなのかも知れません。
その際に絞め代がきちんと取れていれば同じ位置に戻せますし、適正に取れていない場合にその都度スリーブのワンオフ製作ではコストが馬鹿になりません。
そこで前もってオーバーサイズスリーブを量産製作しました。
その際、ブロック側穴内部の荒れや、寸法が真円になっていない場合が殆どなので、半径で約0.25mm(直径で0.5mm)研削してから圧入出来るサイズにしてあります。
真円に綺麗な面と正しいクリアランスで密着させ、カッパーコーティングによってブロックへの熱伝導率を維持し続ける事で、より緩みの発生し難いシリンダーブロックとする事が出来ます。
さて、絞め代としてのクリアランスですが、Z1系位のサイズであればブロック側の穴が常温で大体4/100~5/100mm程小さい状態が本来正しい数値です。
これが1/100~0/100位になると、軽く押すと動き始めます。
これが常温で-1/100~-2/100程度と逆に穴の方が大きくなるレベル迄になったらどうなるか?
(ブラウザや端末によっては肝心な最後が再生されない場合があるようですので、その場合は下のyoutubeサイトアイコンから直接見てみてください)
ブロックを熱して膨張させた上で液体窒素で過冷却したスリーブを落として入れているわけではありません。(スリーブ素手で摘んでますし)
かなりショッキングですが笑いごとでは無く、それなりに距離を重ねた車両はもちろん、既に緩みかけているブロックをそのままにボアアップしてしまったり、ノーマルでもセッティング不調等で常にヒート気味に走り続けた車両なんかではこんな状態になっている事も珍しい事ではありません。
直径にしてたった100分の数mmだけ、ブロック側の穴に熱膨張差によるくせがついて広がってしまっただけでこの様な事になります。
生じた隙間によってスリーブからブロックへの熱伝達が出来なくなって放熱効率も極端に低下しますので、空冷エンジンとして非常に大きなパフォーマンスダウンが生じますから無視は出来ませんし、クリアランスがそのまま残ってしまう様な修理方法はお薦め出来ません。