キャブセッティングの中では個人的にCRキャブのセッティングは好きです。
シンプルな構造は調整箇所が少ないからからこそのメリットが多く、外れたセッティングをするとはっきりと症状が出るところが凄くわかり易いです。
Zシリーズ用と銘打って売られていてもメーカーや代理店から売られているままそのまま付けてきちんと走れる事は稀で、アイドリングを続ける事すら出来ない場合が普通です。
これがFCRやTMRとなると、そのまま付けてもアイドリングはもちろん、とりあえずはそれなりに動いてしまう位ですので、いかに許容度が大きいかわかります。
これをもってCRはセッティングが出難くて、FCRやTMRはセッティングが簡単であると言われる場合もあるのですが、外していても極端な症状の違いも出ずにそれなりに走ってしまうと言う事は、正しいセッティングの良否判断にも悩む場合もあると言う事になります。
たまにお客さんに説明する場合に冗談混じりに例えるのですが、デートの相手と例えるのならCRキャブは裏表の無いはっきりした性格の人。
映画に行くにも食事に行くにも、自分が見たいもの食べたいものをはっきり正直に言ってくれる。
不味いものを食べさすとストレートに不味いと言い不機嫌になる。
そのかわり、本人の好みの場所に連れて行ったり好きなものを出すとこの上なく幸せそうな表情を浮かべる判り易いタイプ。
ちなみに体は頑丈で滅多に風邪ひいたりしません。
対してしてFCRやTMRの場合は、こっちに合わせてくれて本当は趣味でもない場所や好みでもない食べ物でも、”うん大丈夫”と言ってくれるタイプ。
一緒にいて一見楽なのですが、こういった相手は時として本当に楽しんでくれてるのかなと不安になったりします。
どちらかと言えば育ちが良いタイプで、運動神経も良くて健康ではあるのですが体調管理には意外に気を使います。
CRみたいな相手の場合って、しょっちゅう喧嘩になったりするんですが、実は意外と長く付き合えたりするんです。私だけかも知れませんが。
さてこんなCRですが、セッティングする場合はやはり使用目的をはっきり聞いた上で行います。
例えばFCRやTMRの様に加速ポンプを持たないCRの場合、アクセルをどこから開けてもトルク感満点にダッシュをかけられるようなレーシーなセッティングを施そうとするならば、巡航走行中に空燃費はかなり濃い目になる様にする必要があります。
そういったセッティングの車両を街中をゆったり流すのが趣味の人やアクセル一定のツーリングしかしないはずの人に渡せば、燃焼温度も上がらず燃やし切れないカーボンで燃焼室内は真っ黒け。余計な燃料はリングやシリンダー間にあるべきオイルを薄め、ケース側に抜けるブローバイガスに混じってオイルパンのエンジンオイルをも希釈させてしまいます。
例えそこまでいかなくとも燃費の悪化は避けられないでしょう。
たまに入庫したお客さんの車両の調子を見るのにダイノマシンにかけると、大昔のディーゼル車もかくやという様な黒煙をバカスカ吐き出すCR装着車があります。
濃い目のセッティングで負荷をかけて廻すことの少ないエンジンの場合は、マフラーに燃焼し切れなかったガソリンの燃えカスが滞留している為です。そういった車両の場合、オーナーと相談の上でパワー感とトルクを損ねない程度にガスを絞る場合も結構あります。
公道はレースの場とは違って勝つ為に走っているわけではありませんから、開けっぷりが悪いからだなどと言うのも変な話です。使用用途や目的に応じて変わるのがセッティングですからパワーが出てるからとそれが必ずしも正解ではありません。