組み立て中のエンジンのヘッド廻り。
写真に写っているのは、何回か紹介していますがカムシャフトの仮組み用のツールです。
この様にヘッド側に仮スタッドを立てて、ナットでカムホルダーを沈める様にすると、本組みの前の仮組やタペットクリアランスやバルタイ調整でカムを何度脱着しても組み付けの際にヘッド側の雌ネジの痛みを最小限にする事が出来ます。
ヘッド側の雌ネジの痛みの進行の多くが、ボルトで脱着を行う際にバルブスプリングのテンションがヘッドのねじ山をこじる事に起因します。
何度も整備を繰り返すと、ヘリサート加工を施してあってもコイルの外周のアルミごと引き抜ける場合があります。
たまに、これを本組み用のボルトナットセットと勘違いされてお問い合わせいただく方がいらっしゃるのですが、これはあくまで組み付け用の工具です。
4輪のエンジンなんかだと、カムホルダーを取り付けするのにボルトでなくスタッドボルトにナットの構造になっているものもあるのですが、その場合の多くがボルト径に対して目の細かいピッチとなっています。
分割式のコンロッドボルトなんかもそうで、本締結にナットを使うのであれば、ボルトとの嵌合幅が少ない分微妙なトルク管理を行うのと、緩みの防止の為でもあります。
このボルトツールセットはあくまでツールなので、そういった極細のネジピッチにはなっていませんし、第一ハイリフトカムを組み付けできる様ボルトが長めな事もあって、ヘッドカバーが閉まりません(笑)!
ボルトはSCM鋼(クロモリ)の転造(鍛造によるねじ山製法です)、ナットはS45C
そこでカムホルダーを最終的に組み付けするボルトと言えば専用のこういったタイプで行います。
Mk2等の後期ZやJ系の場合は何故かボルト長が2㎜短くなってヘッド側ねじ山の負担が増えますので、初期のZ1系と同じ首下45㎜のものを使います。
ヘリサートしていないヘッドにも使い易い強度10.9のSCM鋼で、この形状のフランジボルトで同じ強度のボルトは一般汎用品にはありません。
エンジン内部の締結用途専用に作られたものです。
ボルトヘッドは鍛造による打ち抜きです。ネジ部分はやはり転造。
6㎜位のサイズのボルトの場合、切削より転造の方がねじ山もスムーズに廻って強度に優れるものが作れます。素材分子をカットしていないのと、太さに対して成型時に生じる鍛造層の割合が多くなる為です。
合わせて使用しているダウエルピンはカワサキ純正のものではなく、両側テーパーとなっているもの。
ヘッドへの挿し込み時にも、カムホルダーを押し下げて組み込む際にもスムーズに入り易くなっています。
さて、SCM材では12.9の汎用ボルトもあるのですが、硬きゃいいというわけではありません。
ヘッド側にヘリサートコイルが入っていて、そこで応力が分散される場合でなければ硬いボルトはトルクのかけ方も気を使いますので、そちらは割と長めのロングヘリサートコイルを入れている場合と言う風に使い分けています。
車体に関しても言える事ですが、何でも強化でとにかくいいという考え方はデメリットが出る場合もあります。
正しくバランスよく使用目的に応じて使い分ける事が大事です。