カムチェーンネタが連続しますが、お客様より質問をいただきましたので、それにお答えするついでに記事にします。
当社で扱っています、Z系STDに対応するDID219Tカムチェーン用ジョイントリンクの強度についてです。
カムチェーンを途中で繋いだりして、その部分の強度は大丈夫なのでしょうかというご意見なのですが、
結論から先に申し上げますと、正しくカシメ作業が行われている限りジョイントリンク部分では切れません。
ホイールを駆動するドライブチェーンを交換する場合、通常はチェーンメーカーより購入したカット済みチェーンを用いて専用のカシメコマを使うのが一般的ですが、これも作業上の問題や使用上の大きなトラブルが無い限りカシメ部分で切れたという話はまず無いと思います。
カムチェーンのカシメコマは、対象になるチェーンと同一の形状や厚さであったとしても1ランク強度を高く製作されているのが普通であることもあるのですが、設計上チェーンの強度はカシメコマになっている外プレートより、ローラーの付いている内側プレートによるものだからでもあります。
この為、万が一にも破断する場合は元々のチェーン側の内側プレート側に起こる場合が殆どです。
又、カムチェーンのジョイントリンクによる交換は、少し前迄のYAMAHA車(FZ,FZR
等の5バルブエンジンや1200㏄のV-MAX等)では普通にメーカー指定の方法としてラインナップされていましたし、4輪でもやはり20世紀時代のメルセデス等ではジョイントリンクを使ってカムチェーンを交換する事が普通に行われている作業だったりもします。
更に、当社で扱っているジョイントリンクはメーカーがリコール対応等のOEMにも使用されるものですので、強度や精度等の品質面での不安も無く使えます。
それでも実際に強度を目で見たいと言う部分もあります。
使ってみたけど切れなかったから大丈夫と言うのではたまたまと言う事もあり得ますし、今一信憑性に欠けますから、どうせなら破壊して試してみましょう。
新品のカムチェーンをチェーンカッターで4分割し、当社で扱っているジョイントリンクで4箇所で接続して戻します。
最初にジョイントした部分はマーキングしてわかるようにしておきます。
これをプレスを使った試験機で破断する迄引っ張ります。
4箇所で繋いだのは引っ張られる部分に必ずジョイント部分が来るようにするためです。
流石日本製、破断はしたもののカタログ上に記載された破断荷重を大幅に上回る迄耐えました。
破断場所は内側リンクプレートのローラー外周部分です。
構造上ここが一番細くなっていますので、ドライブチェーンを含めてローラーチェーンが壊れる場合は大体この部分です。
破断した部分をカットしてジョイントリンクで接続し、再度試験機で引き千切ります。
ここでカシメに使っているのは、デリバリー予定の専用工具です。
従来の2本同時のカシメが可能なものと違い、組み替えながら片側ずつのカシメになりますが、ピン抜きして交換時のチェーンのカットも可能なものです。
2回目
3回目
何度繰り返しても破断するのはジョイントリンク部分ではなく、元々のチェーンの内側リンクプレートです。
ここまでに、最初から使用したものを含め都合6箇所がジョイントリンクで接続されているのですが、それらの部分では破断しませんでした。
以上の事から、Z系のSTDカムチェーンで使用できる範囲内のエンジンであれば、フルノーマルエンジンはもちろんの事、若干のチューニングを施したエンジンにも強度上の不安なく使用可能であるとお分かりいただけると思います。
例えばあくまで目安ですが、ヨシムラさんのST1カムの場合はリフト量9.5㎜でノーマルエンジンにそのまま組み込み可とされています。
当社でも、各社のST1と呼ばれるカムに各種の純正バルブスプリングを使用した仕様のエンジンの場合はむしろアイドラーやエンジン母材の耐久性を重視して、この219Tチェーンを使用する場合が殆どです。
以前に記事にもしてあるのですが、強化カムチェーンと呼ばれるのはあくまで破断するまでの限界荷重が高いという意味でのもので、伸び難いチェーンと言うわけではありません。
むしろ重量面で10パーセント以上増加する為、それが必要でない仕様のエンジンに使用するとチェーンが自身の重さによる伸びを起こしたり、内部部品への負担が増すだけという結果になる場合もあります。