点火時期制御こそ様々な方式のものがあるにせよ、機械式の接点を持つポイント点火から少なくとも無接点方式のフルトラになっているのが通常です。
これは、接触式の針を持つレコードから、光の反射で信号を読み取るCDに進化した様なもので、簡便さやメンテナンスの容易さが飛躍的に向上したものでした。
ただ、元々オートバイは趣味のものです。あえて音楽を聴くのに昔ながらのレコードを使い、手間をかける事自体を趣味として行いたいと言うのを否定したくはありません。
絶対的な時計としての性能はクオーツ式にマイコンを併用したものに劣るのは承知した上で、あえて機械式の自動巻きや手巻きのものを使うというのもありなのです。
この車両は新車からの使用感と正しいメンテナンスを繰り返して現在までに至るフルノーマルの貴重な車両で、オーナー自身も分かっている方ですから無理に点火システムの換装を押し付けることはせずにコンタクト面の点検と清掃、ギャップと点火時期の点検調整を行いました。
又、遠心力で点火時期を調整するアドバンサーも一度取り外して清掃し、スプリングの点検や注油を施します。
組み上げ時点でポイント用のコンデンサに若干の消耗が見られましたのでこれも交換。
整備後は落ち着いたアイドリングと調子を取り戻したサウンドを響かせて帰って行かれました。
さて、当社でも昔からDYNAやASウオタニ、高年式車用の純正イグナイターの流用等、様々な点火システムを整備の際に使用しています。これはエンジンの本来持っている性能を効率良く発揮させるというのが主目的ではありますが、無接点化によるメンテナンスフリー化を行うのも大きな理由でもあります。
何せ、機械式に動いているものは必ず摩耗や狂いを生じますから、定期的にメンテナンスを施さなければ性能を発揮出来なくなります。
当時のユーザーや正しく経験を積んだメカニックであれば、さほど困難な作業では無いのですが、純正で使われなくなって40年近くも経つシステムを正しく整備出来てユーザーにも説明出来る人も少くなりました。そもそもポイント点火システム自体メンテナンスした経験の無いメカニックも多いです。
上記のギャップ調整はイグニッションコイルへの通電時間を正しくする為、しかもこれを行えば必ず点火時期は狂います。だからといって整備の都度ショップに持ち込んでいては工賃も馬鹿になりませんし、ユーザー自身が整備出来るスキルがある場合を除いては無接点式への変更はありなのでしょう。
もちろん正しいスキルを持ったメンテナンスが定期的に行われていることが前提ですが、機械式のポイント接点が普通にストリートを走るにおいて信頼性に欠けているわけではありません。
Zが新車当時は当然この機械式アドバンサーとポイント点火で広大な北米大陸はもちろんの事、ヨーロッパをも縦横無尽に走り回っていたユーザーがいるわけですから、新しいもののみが必ずしも正しいという事もありません。
ただ、全域回転数での性能やメンテナンスの為のコスト(自分でやらずに整備依頼する場合)に関して言えば、ウオタニ等を含む最近のものへの変更がベターです。
特に、排気量や圧縮比、カムプロフィール迄現代的にチューニングされたZの場合は当時タイプのポイント式やアドバンサーによる点火時期制御での対応は困難ですので。