HPのパーツ紹介欄にESTスリーブの特徴を簡潔に纏めてアップいたしました。
さて、最も大きな特徴である
”Z系純正当時の材質に比較して2倍、メッキライナーにも匹敵する耐摩耗性”
についてですが、ESTスリーブがZの純正の2倍硬いというわけではありません。
摩耗しない=硬い素材とついついとらえがちですが、本当にそうならスリーブは減らない変わりにピストンリングやピストンの方が摩耗してしまいます。
シリンダースリーブやバルブガイド等の鋳鉄素材についてはとにかく硬ければ良いと言うわけでも無く、実際そうなのであれば削り出して熱処理した鋼を使えばいいのですが、そうはなっていません。
それでは何故昔のものに比べて現代の鋳鉄スリーブの耐摩耗性がこうまで向上したかと言えば、これは鋳造時に添加される僅かなボロンの配合はもちろんですが、鉄を溶かす際の速度や温度管理と、更に溶解した鉄を鋳型に流し込む際とその冷却を行う際にいかに分子組織を均一に出来るかが大きく関わって来るのだそうです。
実はこれらの”鉄を作る”技術は日進月歩であり、ここ数十年間で最も進化した部分です。更に全世界においては日本が非常に高度なレベルにあって、特にアジアでは追随出来る国はありません。
鉄と言う素材を同じものを使ったとしても、鋳造技術によってその違いが出来る様は、同じ材料を使っても見よう見まねで素人が作った料理と経験豊かなプロのシェフが作ったそれとはレベルが違う事に似ています。(しかも、プロは常に同じ味わいの料理を作る事が出来る事も無視出来ません)
普通に見れば違いのわからない鋳鉄スリーブでも、素材解析をしたり電子顕微鏡でその組織状態を比較すれば見ればその状態は一目瞭然で、耐摩耗性の高い素材の場合は金属分子や各種の元素、炭素が絶妙な配置と混ざり方をしているのみでなく、分子レベルでの空間(鋳造時の巣と言う様な大きなものではなく)も非常に均一に分布しています。
シリンダースリーブは通常オイル潤滑されながら使うものですが、ESTスリーブはこの分子レベルでの均一な微小空間が存在するがゆえに常に絶妙にオイルを保持する事で従来のものを圧倒する耐摩耗性を持つに至っています。
ついでなのでメッキシリンダーについて説明すると、誤解され易いのですがメッキが硬いがゆえに耐久性があるわけではなく、メッキを行う事でシリンダー内部の表面に均一にオイルを保持出来る無数の穴を作る事が主目的の技術です。
この為潤滑に厳しい2サイクルエンジンに先行して投入されました。
現在メッキシリンダーが4サイクルにも採用されるのは、メッキによってスリーブを無くすことでシリンダーピッチを詰めて、排気量の割にコンパクトなエンジンを作る事が出来たり、寸法的に余裕が在る場合でも量産品の場合ESTスリーブの様な材料を使うよりコスト面で有利だからです。
潤滑する事が前提でどちらも耐久性を発揮しているのですが、メッキのシリンダーブロックの場合は摩耗したら丸ごと交換する事が前提になります。
さて、話を戻しますがスリーブ素材の硬さが耐摩耗性を上げているわけではありません。例えば他国製に多いらしいのですが、ボロン鋳鉄スリーブには鋳造技術の違いによって生じる素材ムラによる強度の無さを焼き入れする事で補っているものがあったりします。こうなるとボーリングマシンで削っても硬くて一見良さそうに見えますが、素材が不均一なのは変わりませんからある程度の薄さになるといきなり割れたり変形しますし、上記の様な潤滑状況での耐摩耗性には劣る事になります。
硬さのみではスリーブの良否判断の基準になりません。