Z系J系問わず、何度か整備の為にカムシャフトを脱着していると、カムホルダーを組み付ける為のヘッド側のネジ山が壊れて絞め付け出来なくなるのは、よく知られています。
通常その様な場合は1サイズ大きくしたネジ山を新たに掘って、その中に元々のサイズの内径を持ったヘリサートコイルと一般的に言われるスプリングコイルを捩じ込んで修理するのが普通です。
ただ、このコイルを入れても、やはり何度も脱着を繰り返したりすればコイル外側の新しいネジ山にも負担はかかりますので、特にリフトの高いカムを組んでスプリングのテンションが高まっていたり、もしくは同じヘリサートコイルを使うにもDIYキットによく入っている短いコイル等を使っていたりすると今度はコイル外周のネジ山も再度壊れて引きぬけてしまう場合があります。
ボルトと一緒に引きぬけてしまったヘリサートコイル。
更にその周りに巻いているのは壊れてしまったアルミのネジ山
この写真で外周の母材ごと引き抜けたコイルは通常2スケアと言われる長さのものです。
普通に修理してそのまま使い続けるのであればこれでも十分持つのですが、ハイカムを組んだり、何度もカムの脱着を繰り返すといつかはこうなってしまいます。
これを防止するのに、当社では3スケアと呼ばれる一般的には最も長いコイルを使って更にエンジン仕様によっては首下の5mm長い高張力ボルトを使ったりもします。
もちろんこれで永続的に持つというわけではありませんが、経験上は相当な長寿命が期待できます。
さて、このヘリサートすらも引きぬけた際の修理方法ですが、この場合は引きぬけた部分の下穴を再度拡大して雌ネジを切り、外周にネジを切った金属スリーブを捩じ込んで固定した上で再度スリーブ内部に元のカムホルダーサイズのネジ山を新造します。
この方法は加工時精度が要求されるので(特にダウエルピンが入る部分)ヘリサートよりコストがかかるのですが、これでネジ山が再度壊れる場合は内側の部分のみですから再度スリーブを抜いての修理が出来ない事もありません。
それ以前にヘッド母材側にはこれ以上下穴を拡大する余地はありませんので、同じヘッドを使い続けるのであればこの方法しかないのが現実です。
さて、それでもこの方法を最後の砦として再度の加工は出来ればやりたくありませんから、最近はスリーブ素材にはジュラルミンではなく鉄を使う場合が多くなっています。
特にチューン度の高いエンジンでも、この方法で直したネジ山が再度壊れた例は今のところありません。
組み付け時に使うボルトですが、ヘリサートやスリーブを用いて修理した場合は12.9の高張力ボルトを使います。
写真の物は5mm長いバージョン
ネジ山と座面には潤滑材を薄く塗布して、私らの絞め付けトルクは1.2kg/m。
このトルクでも緩む事はありませんし、ネジ山にも優しいです。
(特にヘリサートコイルの入っている場合はスプリング効果で緩み難いです。)
ちなみに、マニュアルでは1.7~1.8kg/mですが、これはネジ山を清掃して新品のボルトを限りなく状態の良いドライのネジ山に組んだ場合のトルクです。
潤滑材を使いながらこのトルクで絞めるとオーバートルクになり易く、ネジ山を壊す原因にもなりますから注意して下さい。
余談ですが、Z1系に比べるとヘッド母材の弱さがよく言われるJ系ヘッド。
確かに組みバラシの回数の割りにネジ山が壊れるのはJ系の方が数は多いのですが、母材そのものが弱いのが全ての原因かと言うとどうなのかとも思います。
Z1系に比べると純正でもリフト量も作用角も大きなJ系のカムシャフト。
更にMk2迄基本同じカムを使ったZ1系に比べてGPZ1100に至るまで毎年ハイカム化を進めて行ったJ系。
しかも振動が少ない分廻せますので、常用回転数もどちらかと言えば高めです。
こうなると母材強度が同じだったとしても早くネジ山が痛むのはJ系の様な気がします。
実際にアルミの配合なのか熱処理の具合なのかでJ系のヘッドの方が硬度が劣っているとしたら、尚更なのでしょうが。
但し、昨今は新車から開けられた事の無い様な上物エンジンを除いては、Z1系も似たりよったりです。