Z系J系問わず、クランクケースで破損する場所の中でも最も修理の厄介な場所が、このクランクシャフトレースの位置決めピン穴のクラックもしくは欠けです。
Zのクランクシャフトに着いているレースは、クランクホルダーで2か所。ケース間で4か所の計6か所で保持されているのですが、その内オートバイに跨って左側から2番目のレースとスラストワッシャのみでクランクの位置を決めています。
この為、転倒等でクランクエンドを大きくヒットさせると、そのレースを固定しているクランプの位置決めピン部の一か所のみに強烈な打撃が加わる事で、この様に横に向かって割れてしまうわけです。
さて、この部分の修理の何が厄介かと言えば、このレース保持部の円周は絶対に溶接等で歪ませる事の出来ない場所でもあるからです。
見た目上直す事は出来てもこの円周面に歪みが残るとクランクの保持剛性に問題が生じるばかりかクランクベアリングのクリアランスも狂ってしまいますからエンジンがスムーズに廻らなくなるばかりかクランクベアリングやスラストワッシャーの偏摩耗にも繋がります。
程度にもよるでしょうが、クランクケースを修理したつもりがそれまで生きていたクランクシャフトを台無しにしてしまう可能性も生じるわけです。
正直エンジンマウント部分やカバーの着いている場所の周辺であれば極端な位置のズレや平面の狂いでも起こさない限り通常の溶接でも大した問題は起きません。
しかし、こういったクランクシャフトやトランスミッションシャフトの保持部となっているスルーホールは、生産時にクランクケースを閉じた状態でのラインボーリングで加工されている為に、後での修正は非常に困難です。
では、溶接熱で歪ませないようにとなるのですが、そうするとレーザーでの溶接になります。
修理の方法としては、クラック部分を可能な限り鋭角に彫り込んだ後に、谷底になった場所から溶接して埋め込んでいきます。
レーザー溶接は、ピンポイントで狙った場所を瞬間的に溶接を行う事が出来るので、通常の溶接機では不可能な奥まった場所にビードを付ける事が可能で、母材側の変形に繋がる予熱も不要、又溶接中に周囲に広がる様な高熱の発生がありません。
この為ケース母材の周囲を全く歪ませる事無く修理が可能です。
これは、上の割れたケースを修理したものですが、元の割れた部分が想像出来ないレベルになっています。
側壁方面に生じていたクラックも殆ど確認できません。
但し、問題はコストです。
正にピンポイントの作業で、髪の毛の先ほどの肉盛りを繰り返す事になります。
この為に非常に時間がかかる作業な上にレーザー溶接用の機械も高額で、的確かつ間違いの無い修理を行える半面、程度の良い状態で中古で入手出来るクランクケースを購入したほうがよいのではないかなと思える程のコストがかかります。
この為、この手法を用いるのはコストより現状のクランクケースを使用する事が優先される様な、例えばオーナー自身がどうしても思い入れのあるエンジンベースであって交換したくなかったり、オリジナル度の高い車両で市場価値的もにケース交換がはばかられると依頼者が判断された場合にのみ行う作業となります。